2025.03.31
IROHA CRAFT 代表
千葉健司さん
しごと
約15年間空き物件となっていた韮崎中央商店街の複合商業ビル『アメリカヤ』をリノベーションし、再び人々が集まる拠点として復活させたIROHA CRAFT代表の千葉健司さん。物件を紹介し、周辺店舗のリノベーションも数多く手がける千葉さんに、多くの人がお店をはじめる場所として韮崎を選ぶ理由を尋ねてみました。

1967年に建設された「アメリカヤ」は、かつては旅館、喫茶店、お土産屋などが入る韮崎の名物ビルとして地域の人に親しまれていました。オーナーの死去と共に閉店して以降は約15年間空き物件となっていましたが、2018年に建築事務所IROHA CRAFT代表の千葉健司さんが再び息を吹き込み、現在はIROHA CRAFTの設計事務所のほか、カフェ、器屋、コミュニティスペースなどが入る複合商業ビルとなっています。千葉さんは次々とアメリカヤ周辺の空き物件を調査し、アメリカヤと通りを挟んだ敷地の取り壊し予定だった古い長屋を活用して飲み屋街「アメリカヤ横丁」を誕生させたり、周辺でお店を出したいという人々に空き物件を紹介し、数多くの店舗の設計・施工を手がけたりしてきました。アメリカヤの復活からもうすぐ7年が経ちますが、現在も千葉さんの元には、韮崎でお店をはじめたいという人からの相談が次々と寄せられるそうです。

「この約7年で韮崎のまちは大きく変わりました。以前は商店街を歩いている人が少なくて寂しい雰囲気でしたが、今は飲食店や小売店も増え、県内外から多くの人に足を運んでもらえるようになりました。韮崎でお店をやりたいという方からの相談も絶えず、このエリアが多くの方に注目されているのを実感します。こうなったのは、空き店舗ツアーやアメリカヤを会場としたイベントの開催など、地道な積み重ねがあったからだと思います」
空き店舗や実際に空き店舗をリノベーションして起業した先輩移住者のお店を巡る「韮崎市空き店舗ツアー」は、千葉さんが発起人。現在は商工会や韮崎市との連携の元で開催されており、2024年の最新回には、全国から40名近くの参加者が集まりました。

空き店舗ツアーの様子

市外や県外からも多くの人が飲みに訪れるアメリカヤ横丁
「初回の空き店舗ツアーには、今や韮崎駅前商店街の人気店であるPEI COFFEE、Daughter、SEI OTTOなどのオーナーさんたちが参加していました。彼らはもともと人がたくさんいるところでお店をやりたいというよりも、自分たちでまちの景色を変えていくことを楽しもうというタイプで、今もそういったマインドに共感する人たちが集まっていると思います。だからこそ、どのお店も全国どこにあっても通用するような個性とクオリティを持っていますし、新旧問わずお店の人同士がとても仲良しです。よく市外の方に『韮崎って居心地が良いよね』『平和そうだよね』と言われるのですが、本当にその通りで、まちの方も移住者の方もウェルカムな雰囲気で優しい人が多いように感じます」

商店街の入り口に設置されたストリートファニチャー

IROHA CRAFTがリノベーションしたクラフトビールと燻製のお店「TAP8」
千葉さんの言うように、まちの人の優しさや面倒見の良さ、そして少しずつまちが変わっていく様子に惹かれて移住を決めたという声はよく聞かれます。それに加え、各種補助金の充実も、韮崎でお店をはじめる人が増えている大きな理由の一つだろうと千葉さんは語ります。
「韮崎で新規でお店をはじめる場合は、店舗の改修や設備の購入、事業所の賃借などに起業支援補助金を活用できます。また、定住促進住宅に住むと2年間は1万円の家賃補助をしてくれる定住促進住宅家賃補助制度もあるので、移住のハードルが下がると思います。その他にも、空き家バンクのリフォームや家財処分などに関する補助金もあり、起業や移住に関する補助金がとても充実しているんです。IROHA CRAFTでも補助金の紹介や申請のサポートをしていますし、市や商工会とも連携が取れているため、開業までの流れがスムーズなのも良い部分だと思います」
民間、行政、商工会の3者の連携が取れていて、いつでも最新の情報を得ることができる状態は、お店をはじめたい人にとって非常に心強いのではないでしょうか。現在、千葉さんは地域と連携してより良いまちをつくっていくために観光協会や商工会の理事なども務めていますが、意外なことに、まちづくりに興味を持つようになったのはアメリカヤを復活させてからだったそうです。

1967年のオープン当時のアメリカヤ。
「最初はただ単純に、アメリカヤの建物がかっこいいから自分たちの手でリノベーションして何かに活用できたらと思っていました。でも、アメリカヤの復活を地域の方々が想像以上に喜んでくれて、当時の思い出を語ってくれたり、僕たちのことを応援してくれたりして、それがすごく嬉しくて。さまざまなメディアも取材に来てくれて、人の流れが生まれて、『こんなにみんなに喜んでもらえるならもっといろいろやってみたい』と思うようになりました」
アメリカヤのリノベーションをきっかけに地域との繋がりを深めた千葉さんは、点ではなく面でまちを捉えるようになっていったそうです。そんな千葉さんは、韮崎のまちの未来についてどのように考えているのでしょうか。

「僕の目標は、韮崎を『リノベーションのまち』と呼ばれるまちにすることです。古い建物は新築には再現できない味があると思うので、それを活用したまちの風景をこれからもつくっていきたいと思っています。アメリカヤ横丁も今は7店舗ですが、もっと軒数を増やして山梨を代表する飲み屋街にできたら面白いと思いますし、集合住宅をリノベーションして移住者が入居できるようにする構想も練っています。移住希望者が増えていても賃貸物件がないとなかなか移住に結び付かないので、暮らしたくなる家をつくることも必要だと思っています。集合住宅の総称は、『アメリカヤ村』にしたいです(笑)。アメリカヤ、アメリカヤ横丁、アメリカヤ村…その次は何でしょうね? そういう考えるとワクワクするようなこと、遊び心があることをこれからもやっていきたいです」
子どものように目を輝かせる千葉さんのお話を聞いていると、まだまだ韮崎のまちは可能性に溢れているように感じられます。古き良きものと新しいものが混ざり合い、互いに良い影響を与え合いながらまちが変わっていく様子を近くから眺めたり、自分でまちを変えていくという楽しみ方ができるのが、今の韮崎の面白さなのかもしれません。