その先の人々

2025.03.31

合同会社NIRAPS代表

歳森宗一郎さん

しごと

韮崎市の地域おこし協力隊としての活動で甘利山にキャンプ場をつくり、2024年に独立をした歳森さん。東京でサラリーマンをしていた頃には想像もできなかったような出来事やさまざまな人との出会いが、韮崎の暮らしの中にはあふれていました。

 韮崎市の地域おこし協力隊になるため、2021年の6月に東京から韮崎市に移住した歳森さん。標高約1700mの甘利山にキャンプ場をつくるというミッションを協力隊の活動期間中に達成し、任期終了後も自ら立ち上げた「合同会社NIRAPS」でキャンプ場と甘利山グリーンロッジの管理委託を受けながら、韮崎に暮らし続けています。歳森さんが移住を考えたきっかけは、コロナによって働き方に大きな変化があったことだったそうです。

「以前は食品会社の営業をしていたのですが、コロナをきっかけにお客さんに会う機会が減り、オンラインでのコミュニケーションがメインになってしまいました。人との関わり合いの中で学ぶことが好きだったため、『これでは楽しくないし、成長できない気がする』と思い、働き方や暮らし方を見直すことにしました。もともとアウトドアが好きで地方に足を運ぶことが多く、その中でよく聞く人材不足・後継者不足の問題をどうにかしたいという想いを持っていたため、協力隊の仕組みは自分にぴったりだと思い、全国の協力隊の募集要項をウェブで検索していたところ、韮崎市の協力隊の募集ページに辿り着いたんです」

毎年6月上旬から中旬にかけて、甘利山の山頂一帯には約15万株のレンゲツツジが咲き誇ります。

 当時の歳森さんは一度も韮崎市を訪れたことがありませんでしたが、キャンプ場の設立・甘利山グリーンロッジの運営という活動内容と東京からの距離の近さに惹かれたそう。その後すぐに韮崎市に足を運んだ際の様子を、歳森さんは懐かしそうに振り返ります。

「韮崎市は来てみたらすごく良いところでした。駅を降りてすぐに大きな観音様がある光景も気に入ったし、ほどよく田舎だけどお店はたくさんあって、少し車を走らせれば大自然の中で過ごすこともできる。暮らしやすそうなまちだなと思ったのをよく覚えています。甘利山にも下見に来たのですが、車で高いところまで登れて、少し歩くだけで気軽に絶景が楽しめる山は珍しくて魅力的でした。想像よりもロッジの規模が大きくて驚きましたが、人を呼ぶことができるポテンシャルが感じられたので、前向きな気持ちで取り組むことができました」

韮崎市と包括協定を結んでいるmont-bellとコラボしたレンゲツツジTシャツ

 無事に協力隊としての採用が決まった歳森さんは、ペット可のアパートを見つけて愛犬のウィルと共に韮崎市に移住。協力隊としての一番初めの仕事は、約2年間閉鎖されていたロッジの蜘蛛の巣を掃除することだったと言います。

「キャンプ場をつくるぞと意気込んでいたのですが、その前にロッジの方にも手を入れるべきところがたくさんありました。掃除から始まり、屋根の張り替えや部屋の改装、物販や資料室の充実、細かいルールの設定やオペレーションの確立などに奮闘しました。同時にロッジの前に広がっていた笹藪を刈ってキャンプサイトをつくる計画を進め、9月には重機の取り扱い講習を受け、10月には笹の根っこを自ら抜根して整地をしました。そして冬の間に準備を進め、翌年の5月にはキャンプ場をプレオープン。目まぐるしい日々でしたが充実感があり、お客さまも喜んでくれたので嬉しかったです」

“雲の上のキャンプ場”という名でスタートした甘利山のキャンプ場はすぐに人気スポットとなり、シーズン中は予約でいっぱいになることもあるのだそう。歳森さんと話すことを楽しみにしているリピーターの方や、ウィルに会いに何度も足を運んでくれるお客さんもいるそうです。

雲の上のキャンプ場の炊事場

「さまざまな人に会って、サラリーマンの頃には想像もできなかったような新たな世界が広がっていくのを実感する日々です。できることもどんどん増えていて、酒販、狩猟、大型2種の免許も取ったし、草刈り、チェーンソー、クレーン、玉掛け、重機の取り扱い講習なども受けていて、どれも仕事に役立っています。サラリーマン時代の仲間やお客さんも東京から遊びに来てくれるのですが、会うと『いきいきしてるね』『若返ったね』などと言われることが多くなりました」

 歳森さんは次々と新しいことに挑戦し、体を動かして汗を流しながら、お客さんを喜ばせるための場所づくりに励んできました。協力隊として積極的に地域の人との繋がりも築いたことで、さまざまな人・物・情報が歳森さんの元に集まってくるようになったと言います。

「今はアパートから引っ越して築50年の一軒家に住んでいるのですが、その家は知人に紹介してもらった方から無償で譲り受けました。同じ敷地内にある築210年の古民家と畑付き。元の持ち主は北九州に住んでいて、両親から相続した家の管理に手がかかり困っていたみたいです。まずは築50年の家を住める状態にするため、DIYで畳をフローリングに変えたり、ペンキを塗ったりしました。初心者なのでYouTubeで学びながらの作業でしたが、多くの人が手伝ってくれたおかげでなんとか形になりました。築210年の古民家の方はボロボロでどうしたものかと悩んでいたのですが、たまたま出会った一級建築士の方にその話をしたところ、『地域活動の拠点にしたい』と言ってくれました。今はその方と月1回の頻度でリノベーションを体験できるイベントを開催しながらゆっくり作業を進めています。譲り受けた畑は、知人5名に貸しています。僕はシーズン中は甘利山に居ないといけないので畑仕事はできませんが、賃料の代わりに野菜を分けてもらえるのでありがたいです。みんなで農業をするのが楽しいみたいで、他にも周辺の使われていなかった畑を借りてさまざまな野菜を育てています。地域には高齢で農作業ができない方も多く、使っていない畑を管理してもらえるのは地域のためにもなるので嬉しいです」

多くの人の協力の下、古民家を改修。床を剥がして傷んだ土台を修復しています。 

 これまでお客さんや地域の人のことを考えて真面目に活動に励んできた結果、歳森さんの元には自然と多くの協力者が集うようになりました。自身も日々できることの引き出しを増やしながら、人を巻き込んでいくパワーも持つ歳森さんは、今後どのような未来を思い描いているのでしょうか。

「これからは、甘利山以外にも活動の幅を広げていきたいです。鳳凰三山や茅ヶ岳、荒倉山、白山城跡などの里山も含めた韮崎の山々を僕は、“韮崎アルプス”と呼んでいるのですが、それらの山々の登山道の整備や二次交通の充実などを進めたいと思っています。山小屋も人手不足でそういったことに手が回らなくなってきているようですが、みんなで力を合わせて貴重な山岳観光資源を未来へと繋げていきたいです。協力者はいつでも募集中です!」

甘利山グリーンロッジ・雲の上のキャンプ場

山梨県韮崎市旭町上條北割地内
TEL:090-8595-6141(季節電話)
営業期間:4月下旬~11月上旬