その先の人々

2025.03.14

登山ガイド

杉本龍郎さん     

コミュニティ

登山ガイドとして夏山から雪山まで幅広くガイドとして活躍する杉本さん。本格的に山と向き合い、ガイドとして一流を目指そうと思って移住した先は韮崎市。街と自然が近いからこそできる暮らしが、そこにはありました。

2019年の5月に埼玉県さいたま市から韮崎市に移住した杉本さん。現在は日本全国様々な山にお客様を案内しながら一緒に登る登山ガイドの仕事をしています。ガイドを目指したきっかけは、新卒で務めた商社で仕事の忙しさから体調を崩し、働くことの意味を考えたことでした。その後、縁がありスイスを拠点にしたヨーロッパアルプスやニュージーランドでのトレッキングガイドの経験を積むことになり、その時感じた自然の雄大さに心を打たれ日本に戻ってからも山の仕事をやっていこうと心に決めました。自然や山に近い場所は全国津々浦々あるなかで、杉本さんが移住先として選んだのは韮崎市でした。

「韮崎に移住した理由は、現在北杜市に住んでいる花谷泰広さんとの出会いが大きいです。花谷さんがが設立した“ヒマラヤキャンプ”という若手養成プロジェクトに2018年に参加し、花谷さんから『今後いろいろなツアーをやっていきたいから手伝ってもらえないか』と言われたのがきっかけでした。北杜市も考えたのですが、良い物件が見付からず、隣の韮崎市を探したらちょうど定住促進住宅が空いていました。単身者向けの移住者住宅があり家賃も適度で、さらに大家さんが家賃補助のことも教えてくれて、書類の提出も複雑ではなく助かりました。実際に住んでみて、韮崎は街なので生活に苦労することがありません。駅前にお店もいろいろあるし、車さえあればどこの山にもアクセスしやすいので、とてもちょうどよい街と自然との距離感がある場所だなと思いました」

韮崎に移住してからは、JRの特急列車が止まる韮崎駅でお客様をピックアップし、登山口まで行くというガイドの仕事も多いそう。もともと韮崎は、八ヶ岳エリアや鳳凰三山に登山しに行く登山者が出発地点として訪れることが多い場所。杉本さんの仕事とも自然とリンクしました。

「韮崎市はまさに山と街が交差するジャンクション。ぼくの仕事にはぴったりな場所でした。また、住んでからこの土地の歴史も調べてみましたが、甲斐武田家発祥の地でもあるし、武田勝頼によって築城された新府城があったりと、始まりと終わりの歴史があるのがとても興味深いです。埼玉に住んでいた頃はそこまで土地と歴史が紐づいていなかったのですが、山梨はいろいろと深掘りすると面白い場所があります。登山ガイドの仕事は、ただ安全に山に登れるようにガイドするだけではなく、山や自然の生き物などはもちろんのこと、その場所の成り立ちや歴史もしっかりと説明して、お客様をいかに満足させるかがとても大事です。国際山岳ガイドの資格を持っている先輩に『この仕事は究極のサービス業だ』と言われたことがあって、本当にその通りだと思いました。何日もお客様と衣食住を共にする仕事は他になかなかないので、そこで伝えられることの量はすごく多いと思っています」

杉本さんはどんな人とも会話ができるよう、日々の情報収集に力を注いでいるそうです。韮崎のことも歴史や場所の面白さを住んでみて実感し、自分だからこそできる情報の発信も始めています。

「せっかく韮崎に住んでいるので市に提案してふるさと納税の返礼品として、甘利山などの韮崎の山をご案内するプランとともに韮崎の武田氏ゆかりの歴史名所をゆったり歩く1日プランを用意してもらいました。住んでいても意外と知らない歴史のこと、街の散策など、まだ韮崎のことを知らない人にもこの街の良さを知ってもらえたら嬉しいと思って仲間と協力して始めました。今日来たこの甘利山も、登山をあまりしない人でも標高約1700mの駐車場から頂上まで30分もあれば行けてしまう気軽に登頂できる山。富士山と甲府盆地を一望できる景色を望めたり、のんびり自然を散策して下山して温泉に入るだけでもリフレッシュできることを知ってもらいたいです。ぼく個人の最近のお気に入りスポットは、更科橋から見える富士山。振り返ればすぐ後ろは八ヶ岳だし、市内どこからでも常に山を見渡せるのは最高です」

山梨に移住して1年。山梨にはとてもバラエティ豊かな山があり、登山の仕事をする人にとっては素晴らしい環境だと杉本さんは言います。山梨で1番のお気に入りの山は? という質問には、『それぞれの良さがあるからあるから、順位を付けるのは難しいのですが…』と困った表情を浮かべながらも、丁寧に答えてくれました。

「甲斐駒ケ岳は遠くから見ても登っても、本当によい山だなと思います。あと、金峰山はぼくにとって思い出深い山で、初めて登った2000m以上の山だったんです。社会人になってすぐに外国人の友だちと登りました。巨岩の五丈岩と鳥居がある写真を雑誌でたまたま見つけて、そのインパクトに惹かれ登ってみたいと思いました。修験道の開祖によっての歴史や金峰山信仰などのことも深掘りするとさらに面白くて、今もとても魅力を感じています。山梨市の大弛峠からだと山頂までのアクセスもしやすくおすすめです。他にも八ヶ岳も好きですし、韮崎からだったらどこの山にも不便なく行けるので、もっといろいろな山に行きたいです」

自身も韮崎を拠点として山に通う生活を楽しんでいる杉本さんは、同じようにガイドを仕事としている人々に韮崎の魅力をもっと伝えていきたいと語ります。

「韮崎にもレジェンド的なガイドさんはいますが、これから登山ガイドや山岳ガイドをやっていくという同年代はあまりいません。市でも鳳凰三山をPRしてはいますが、まだ滞在するというよりは、通り過ぎてしまう場所というイメージがあるのかもしれません。実際ぼくが感じたような韮崎の街と自然の近さを山関係の仕事の方に知ってもらえば、絶対に住みたくなると思うんです。自分自身でもブログで韮崎での暮らしを発信したり、韮崎に住む登山&街のガイドとして、できることはなんでもやっていければと思っています」

杉本龍郎