その先の人々

2025.03.18

MARS HOSAKA WINERY ワインバー&ショップ 支配人

佐藤靖さん

しごと

韮崎市穂坂町は、昼夜の温度差が大きく、水はけも良いのでぶどうをはじめとする果樹栽培が盛んな地域。自然豊かなこの場所に、マルス穂坂ワイナリーが2017年に新設されました。支配人を務めるのは鹿児島から山梨に移り住んできた佐藤靖さん。外からの目線で見るからこそ、この地域の魅力に気づけると佐藤さんは語ってくれました。

鹿児島県に本社を置く『本坊酒造』が、洋酒生産の拠点として笛吹市石和町に山梨工場(現マルス山梨ワイナリー)を1960年に設立。そして2017年には、さらなるワインの品質向上を目指し韮崎市穂坂町に『マルス穂坂ワイナリー』を開設しました。

高低差のある傾斜を利用して、ぶどうや果汁に負荷が少ない繊細でやさしいワイン造りができる「グラヴィティ・フロー」設計を取り入れている醸造棟。無料で自由に見学できます。(7月下旬~10月下旬がワイン づくりの時期)

この施設で支配人を務める佐藤さんは、20代前半からずっとホテルやレストランなどのサービス業界で働いてきました。屋久島のホテルで働いているときに、本坊酒造がつくるワインに出会い、「今まで飲んだことのない日本のワイン」と感動してワインの世界に飛び込むことを決めました。

「そのあとすぐにワイン用の自社のぶどう農園ツアーが開催されることを知り、そのツアーに参加するために鹿児島から韮崎市に初めて訪れました。鹿児島の風景とも違う、見渡す限りのぶどう畑にとても感動したことを覚えています。まだ更地だったワイナリー建設地を見て、この景色が見えるところで働きたいとすぐに履歴書を書きました。そして採用していただいてから、2016年に鹿児島で蒸溜所の新規施設の立ち上げに関わり、2017年にこの穂坂のワイナリー立ち上げが始まって、念願の山梨に来ることができました」

北海道や沖縄、鹿児島など様々な場所で働いてきた佐藤さん。いろいろな場所を見てきたからこそ、ここにしかない穂坂の良さも実感できたのかもしれません。

店内は広く、屋上に上がることもでき、ぶどう畑と甲府盆地、そして富士山が見渡せる景色に出会えます。

「穂坂地域は、日照時間が長く糖度の高いぶどうが育ちます。ぶどうの皮は厚く、穂坂のぶどうで仕込んだワインは強めのしっかりとした味わいになります。わたしたちマルスワイナリーでは、1980年代にこの穂坂のぶどうに出会い、いまではマルスの定番商品ともなっている『シャトーマルス・シリーズ』が生まれました。このシリーズで使っているぶどうは、主に穂坂地区を中心としたぶどうです。高品質な醸造用ぶどうの産地として、わたしたちにはなくてはならない地域なんです」

マルス穂坂ワイナリーには醸造棟の他に、ビジター棟も併設されています。約20種類のワインのテイスティングができる他、ワイナリー限定グッズや山梨の特産品も並びます。どのようなお客様が来ることが多いかを聞くと、県外のお客様が多いといいます。佐藤さんは、これからもっと県内の人にも知っていただき気軽に来てもらうきっかけを作りたいといいます。

「来た当初は誰も知り合いがいないところからのスタートで難しかったのですが、最近はわたしも外に出るようになり、山梨での人との繋がりもだんだんと増えていきました。その出会いの中で、県内でつくられる美味しい特産品や雑貨に魅了され、お客様に紹介できるようショップで取り扱っています。県外の方はもちろんですが、山梨の人にまだ知られていない山梨のよいものを見てもらえるきっかけになれたら嬉しいですね。屋上からの眺望も晴れたらとても綺麗です。ぜひこのワイナリーに来て、そしてこんな場所があることを知ってもらって、また足を運んでいただけるショップを目指していきたいです」

山梨ならではのモノの豊かさ、山梨の人のネットワークの親密さなど、県外から来て感じることも多いそう。佐藤さんが韮崎市で勤め始めて3年。山梨の文化や、韮崎市全体の環境や自然、観光など、どういったところに魅力を感じるか聞いてみました。

穂坂で獲れたぶどうを使ったワインの数々。ショップ限定のここでしか購入できないワインや限定グッズもあります。

「地元の人はぶどうも桃も身近な存在で、ご存知の方が多いですが、同じ品種でも地域によってもぜんぜん味が違うんですよ。驚きました。わたしは韮崎の新府の桃がとても好きです。果物は生食で食べることがほとんどですが、加工してドライフルーツやコンポートなどにしてもとても魅力的です。韮崎市の皆さんは人あたりが良い方ばかりです。おすすめできる良い場所は細かく言ったら色々あるのですが、まだ県内の多くの人に気づいてもらえていないのかなと。わたし自身もこれから色々な魅力ある所を知って、多くの方に伝えていけたら嬉しいです。周辺には、長野南部や韮崎、北杜だけでもかなりのバリエーションのお酒があります。周辺の点と点を結ぶ。横の繋がりで連携が取れたら、それを活かし、いろいろな切り口の先で、韮崎に降り立ってもらうのが理想ではないでしょうか。韮崎は駅前に子育て支援センターの『にら★ちび』もあるからしっかりと子育て世代をサポートしているし、年配の方でも自然の多い場所で静かに暮らせる環境があるので、暮らしやすさがある街なのではないでしょうか」

佐藤さんはマンパワーで頑張るのではなく、地域ぐるみでの魅力の情報発信の重要性を強調してくれました。自分が暮らす街だけでなく、周辺地域も同じフィールドと捉え活用する。それこそが田舎だからこそ、韮崎だからこそできる、その先の働き方や暮らし方かもしれません。

本坊酒造株式会社 マルス 穂坂ワイナリー

山梨県韮崎市穂坂町上今井8-1
3月〜11月:9:00〜17:00  12月〜2月:10:00〜16:00
12/29〜1/3定休(臨時休業有り)